Smoke – 映画系ダイアローグ・マガジン

煙草の煙に目を細めると、照明を浴びたり、隠れたり、表と裏をいったりきたりする魅力的な人たちがいる。映画からそのほかのジャンルまで、愛すべき人たちにクローズアップする、ダイアローグ・マガジン。

【映画監督 石井裕也】「やるべきことが、期せずしてわかりやすくなった」

聞き手:原田満生 写真:Sai 文:大谷道子

INDEX

  1. 誰が見るか、どう楽しませるか
  2. 「俺、間違ってない」と確認したかった
  3. 現場人であり続けるということ
  4. 人を感動させるパワーは、ごく単純なものに宿る

I=石井裕也 / H=原田満生

現場人であり続けるということ

H
データの話でいうと、Netflixの最初の作品……『ハウス・オブ・カード』(13年)なのかな? あそこ、AIを使った分析会社を買収してて、世界中で誰がいちばん観られてるかっていうのを分析してる。それでケヴィン・スペイシーが一番だと出たから、彼を主役にしたんだよ。
I
へぇーっ。
H
で、監督なら誰……って、そういう感じでやってるの。彼らは200カ国くらいの人を相手にしてるわけだからね。実は、好きなことはやってないんだよ。ものすごくちゃんと計算してる。
I
あぁ……。
H
Amazonとかも、そういう感じ。だから、考え方は変えていかなきゃいけないんだろうね。でもね、俺は、映画は映画館で観てほしいんだよね。やっぱり、こんなちっこい、携帯の画面で観てほしくないんだよ。
——
伝えたいものも、伝わらないですし。
I
技術の継承も、途絶えますよね。
H
うん。だから、僕は現場人でありたいんですよ。木村大作さんだって、黒澤映画の作り方を継承したいと思っていろいろやってるわけじゃない? そんなこんなで干されたとしても、僕らは映画を作れる。NetflixやAmazonは、オファーをしてるだけで、生産していない。でも僕らは、何があっても絶対に生産できるんですよ。何かものが作れる。そこは絶対、守りたいしやり続けたい。人の金でもいいから。これ誰をターゲットにしよう、とか、ヒットするためには、とか、さんざん話してきて、そこはもう永遠に続くかもしれないけど……本当は、嫌なんだけどね。
I
新しい映画、35ミリで撮ったんですよ。フィルムで。
——
いいですね。
H
何で?
I
まだ発表前なんで言えないんですけど、いろんな思惑があって35ミリにしたんですけど。でも以前、ある若い知人が言ったことに唖然としたんです。その人、フィルムの画質が「ビリビリしてて汚い」って。
H
あー。
I
僕としては今回、いかにフィルムがデジタルより優れているかを再確認したんですけど、人によってはただの無駄でしかないんですね。フィルムって、撮影時、ものすごい速さでカメラの中を回転しているので、実は微妙に画面が煽ってるんですよ。1コマ1コマ、本当は静止していない。つまり、画面が揺れているんです。人間の視覚ではわからないくらいなんですけど、フィルムで映写した場合は、もっと煽る。
——
肉眼でわかるか、わからないか。
I
たぶんわからない。で、その煽り、揺れがあるからこそ、被写体にいい意味での抽象性が生まれるし、広がりとか、豊かさみたいなものも生まれると思うんです。デジタルというのは、よくも悪くも、フレーム内のものがすべて電子的に完璧に記録されるので、容赦がない。でも、フィルムには容赦があるんです。だけど、小さい頃から容赦のないものに慣らされて育った人たちは、容赦があるものに対して逆に違和感を覚えるんだと。
H
石井も、どっちかっていうとデジタル世代でしょ?
I
でも、最初に撮ったときはフィルムでしたよ。
H
最後の世代なんだな。
I
ああ、もう違うんだ、今まで目指してきた、「これが映画だ!」っていうものとは、もう違ってきてるんだ、という……。
H
いいのか悪いのか悲しいのかわかんないけど、そういう時代になっていくわけですよ、絶対的に。テレビが始まったときもそうだったし、ビデオがデジタルになったときも、音楽がダウンロードできるようになって、LPが廃れたときも。でも、生かすっていうやり方もあるよね。今、LPに人が戻ってきてるじゃない。
I
うん。
H
だから、もしかしたら映画も、行き着くところまで行ったら戻ってくるのかもしれない。アナログに。わかんないよ? だから、石井と飲むときには、いつも聞くよね。「これからどうするの?」って。これからどう自分を見せていくか、作品選びみたいなこと……。「そろそろああいうのも、やっといたほうがいいんじゃねぇか?」とか。
I
原田さん、自分でDVDを監督別に分けて、作った年順に並べるって言ってたじゃないですか。
H
うん。
I
で、背表紙を見て、「この監督、こういう流れで来てるんだ」みたいなのを、俯瞰して眺めると。その話を聞いて、うちでも一応……ちょっと自己愛に振れすぎてますけど、DVD並べて、次にここに入れるのは何がいいかな? って考えるんです。次はこれが決まってるけど、その次は何だろうかと、架空のものを設定して。
H
すごいね。
I
すごいねって、毎回やれって言ってるじゃないですか、僕に!(笑)

石井裕也 YUYA Ishii

1983年、埼玉県浦和市(現・さいたま市)生まれ。大阪芸術大学芸術学部映像学科卒業。05年、大学の卒業制作である初の長編作品『剥き出しにっぽん』でぴあフィルムフェスティバルアワードグランプリを受賞。09年の『川の底からこんにちは』はベルリン国際映画祭正式出品作に選出されるなど国内外で高い評価を受け、13年公開の『舟を編む』はアカデミー賞外国語映画部門日本代表作品に選出されるほか、日本アカデミー賞最優秀作品賞並びに最優秀監督賞、芸術選奨新人賞など多くの栄冠に輝いた。17年、詩人・最果タヒの詩集を原作とする『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』で、キネマ旬報ベストテン 日本映画ベスト・テン第1位を獲得。ほかに『ぼくたちの家族』『バンクーバーの朝日』、テレビドラマ『おかしの家』『乱反射』、舞台『宇宙船ドリーム』などの作品がある。

原田満生 MITSUO Harada

1965年生まれ。映画美術監督。『顔』(00年/阪本順治監督)、『ざわざわ下北沢』(00年/市川準監督)で第55回毎日映画コンクール美術賞、第20回藤本賞特別賞を受賞。05年『亡国のイージス』(阪本順治監督)で第29回日本アカデミー賞優秀美術賞、07年『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(松岡錠司監督)で第31回日本アカデミー賞優秀美術賞を受賞。『テルマエ・ロマエ』(12年/武内英樹監督)、『北のカナリアたち』(12年/阪本順治監督)の2作品で第36回日本アカデミー賞優秀美術賞を受賞。『舟を編む』(13年/石井裕也監督)、『許されざる者』(13年/李相日監督)の2作品で第37回日本アカデミー賞優秀美術賞を受賞。同じく『舟を編む』では第68回毎日映画コンクール美術賞を受賞。その他、『深夜食堂』(15年/松岡錠司監督)、『散り椿』(18年/木村大作監督)、『日日是好日』(18年/大森立嗣監督)など。原田満生オフィシャルサイト

Smoke vol.1 創刊号のお知らせ

Smoke vol.1

Smoke vol.1 創刊号

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池松壮亮(俳優)/比嘉世津子(Action inc.代表)/石井裕也(映画監督)

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