Smoke – 映画系ダイアローグ・マガジン

煙草の煙に目を細めると、照明を浴びたり、隠れたり、表と裏をいったりきたりする魅力的な人たちがいる。映画からそのほかのジャンルまで、愛すべき人たちにクローズアップする、ダイアローグ・マガジン。

【映画監督 石井裕也】「やるべきことが、期せずしてわかりやすくなった」

聞き手:原田満生 写真:Sai 文:大谷道子

INDEX

  1. 誰が見るか、どう楽しませるか
  2. 「俺、間違ってない」と確認したかった
  3. 現場人であり続けるということ
  4. 人を感動させるパワーは、ごく単純なものに宿る

I=石井裕也 / H=原田満生

誰が見るか、どう楽しませるか

H
石井くん、ビール?
I
そうですね、ビールを。
H
っていうか、おめでとうございます。お子さんご誕生。
——
おめでとうございます。
I
ありがとうございます。
H
煙草、やめたんだっけ。子どものため?
I
まあ、いろいろです。
H
そうか。今、どうしてんの? 暇でしょ、最近。
I
暇じゃないっすよ(笑)。来週、映画のダビングなんで。
H
あ、そうなの。
I
昨日、深夜4時に最後の劇伴(音楽)作業が終わって。だから、忙しいんです。……これって、何に載るんでしたっけ?
H
タブロイド。俺が発行する。
I
誰でも見られるんですか?
H
わからない。まだ決めてない。
I
もう誰かとやったんですか?
H
やってない。実は、お前が最初なの。
I
じゃあ、パイロット版的な。
H
そう。だから、最後になるかもしれない(笑)。……でもさ、外に出るとき、いつも着飾ってしゃべってるでしょ? 映画の宣伝だと。
I
まあ、それはそうですよ。宣伝なので。
H
インタビューでも、何かテーマがあったりして。写真も、ものすごく難しい顔してて……でも、もっと違うところがあるんじゃないかと思ったんだよ。俺が知ってる石井裕也は、もっと違うんじゃないかって。
I
フフフ。原田さんとふたりで飲みに行っても、同級生とふたりでいるときとは違いますから。
H
そうなんだよ。石井って、意外と出さないんだよ、素を。
——
礼儀正しい方ですし。
H
もしかしたら、おせっかいな話かもしれないよね。いくらこっちが素の部分を引き出したいって思っても、本人としては「そこは触らないでくれ」ってことかもしれない。だから今日は、ものすごく手探りなんだよ。もっといえば、こんな対談やる意味あるんですか? という。
I
やる意味……わかんないですね、それは。何もいいことなかったりして(笑)。
H
俺たちはいつもこうやって飲んでるから、石井裕也っていうヤツを知ってる。でも、それを世の中の人に伝える必要があんのか? っていうのが、根底にあるんだよ。
I
取材のときは、職業病みたいなものですけど、考えますからね。誰が見るのか、どう楽しませるかっていうのを、自然と。
H
「伝える」ことを。
I
そう。だから、女性ファッション誌の場合と、映画雑誌の場合とでは、おのずと使う言葉も変わりますよね。
H
ああ……そういうのが、いらないんだよ。
I
いらないかどうかわかんないですけど(笑)。でも、何も考えずにやれればラクなんでしょうけどね、本当は。
H
でしょ? だって、現場だと、お前いつもピャッピャしててさ、「やばいっすよ、やばいっすよ」が口癖で……。でも、そんな石井裕也じゃねえもんな。表に出てるのは。
I
まあ……目的なくしゃべるってことは、ないですね。大人になってから。
H
ああ、すでにもう、いつもの石井裕也じゃない。
I
状況がそうさせるんじゃないですか? だいたい、自分をよく見せようと思いながらしゃべりますからね。普通、人間は。
H
でも……まあ、それは仕事だからね。これは仕事じゃないから、飲んでりゃいいよ。飲んでください。普通に。
I
はい(笑)。

石井裕也 YUYA Ishii

1983年、埼玉県浦和市(現・さいたま市)生まれ。大阪芸術大学芸術学部映像学科卒業。05年、大学の卒業制作である初の長編作品『剥き出しにっぽん』でぴあフィルムフェスティバルアワードグランプリを受賞。09年の『川の底からこんにちは』はベルリン国際映画祭正式出品作に選出されるなど国内外で高い評価を受け、13年公開の『舟を編む』はアカデミー賞外国語映画部門日本代表作品に選出されるほか、日本アカデミー賞最優秀作品賞並びに最優秀監督賞、芸術選奨新人賞など多くの栄冠に輝いた。17年、詩人・最果タヒの詩集を原作とする『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』で、キネマ旬報ベストテン 日本映画ベスト・テン第1位を獲得。ほかに『ぼくたちの家族』『バンクーバーの朝日』、テレビドラマ『おかしの家』『乱反射』、舞台『宇宙船ドリーム』などの作品がある。

原田満生 MITSUO Harada

1965年生まれ。映画美術監督。『顔』(00年/阪本順治監督)、『ざわざわ下北沢』(00年/市川準監督)で第55回毎日映画コンクール美術賞、第20回藤本賞特別賞を受賞。05年『亡国のイージス』(阪本順治監督)で第29回日本アカデミー賞優秀美術賞、07年『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(松岡錠司監督)で第31回日本アカデミー賞優秀美術賞を受賞。『テルマエ・ロマエ』(12年/武内英樹監督)、『北のカナリアたち』(12年/阪本順治監督)の2作品で第36回日本アカデミー賞優秀美術賞を受賞。『舟を編む』(13年/石井裕也監督)、『許されざる者』(13年/李相日監督)の2作品で第37回日本アカデミー賞優秀美術賞を受賞。同じく『舟を編む』では第68回毎日映画コンクール美術賞を受賞。その他、『深夜食堂』(15年/松岡錠司監督)、『散り椿』(18年/木村大作監督)、『日日是好日』(18年/大森立嗣監督)など。原田満生オフィシャルサイト

Smoke vol.1 創刊号のお知らせ

Smoke vol.1

Smoke vol.1 創刊号

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池松壮亮(俳優)/比嘉世津子(Action inc.代表)/石井裕也(映画監督)

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