Smoke – 映画系ダイアローグ・マガジン

煙草の煙に目を細めると、照明を浴びたり、隠れたり、表と裏をいったりきたりする魅力的な人たちがいる。映画からそのほかのジャンルまで、愛すべき人たちにクローズアップする、ダイアローグ・マガジン。

【Action Inc.代表 比嘉世津子】「お互いの好奇心を掛け合わせれば」

聞き手:原田満生 写真:Sai 文:大谷道子

INDEX

  1. 世の常識を覆す映画を
  2. 「ラテン系」は明るくない
  3. 貧乏で何が悪いの?
  4. 映画は特別なものになる

S=比嘉世津子 / H=原田満生

映画は特別なものになる

H
そうやってやり続けてきて、映画作りの現場も体験して。
S
2本だけだけどね。三池(崇史)さんの『天国から来た男たち』(01年)と『エルネスト〜』と。でも、何ていうのかな、日本の映画って、お金を出す人と現場とがすごく乖離しているっていうか、その間をつながなくちゃいけない人たちが途中で諦めちゃってるところにすごくフラストレーションを感じた。三池さんのときは、私、通訳だけはイヤだったから、アソシエイト・プロデューサーという役割をもらって、企画の2年前から関わってきたんだけど……。
H
うん。
S
でも、結局日本のプロデューサーたちは、自分の持ち分をなるべく少なくしようっていう感じなんだよね。ぜんぜん現場にお金が回ってこないもんだから、一回、私、エグゼクティブ・プロデューサーに「ヘラヘラ来てんじゃねえよ、金持ってこんかい!」って言っちゃった(笑)。すごく驚いてた。
——
言われる機会がないんでしょうね、そういうふうに。
S
そのとき、周りから「比嘉さんって、権威主義じゃないんですね」って言われてさ。それって褒め言葉なんだよね? まさか権威主義をよかれと思ってないよね? と。
H
結局そこに残るのは、「このものづくりの場をどうしようか?」ってことなんだよね。拘束期間とかギャラとか、関係なく。
S
うん、うん。
H
ねぇ、比嘉さん……これから映画ってどうなると思う?
S
映画ねぇ。私は、これから映画を観るのは、とても特別なことになっていくと思う。
H
ネットを含めて、いろんなソフトが山ほどある中で、「これを観ろ!」って提案していくわけじゃないですか。
S
「観ろ!」じゃなくて「観たかったら観れば?」。そのくらいのスタンスでやるべきだと思う。で、それを観た人に、何かが心に残れば……。ビジネスとしてはうまくいかないかもしれないんだけど、私としては、何か、その主流から外れたところで何かを探してる人たちに伝えたいっていうか。
H
それって、すごい理想じゃないですか。
——
いいですね。理想。追求してください。
S
今の映画ってね、邦画は役者を動員して宣伝できるけど、洋画はものすごく媒体が減ってんの。私が配給する映画がある程度いけたときは、『スタジオボイス』があって『マリ・クレール』があって『エスクァイア』があって、その中で観る目のある人が私の配給する映画を面白いって言ってくれて、読者が観てくれた。でも、そういう媒体が全部なくなっちゃった。映画ライターでも「このテーマは俺が書く!」っていう気概のある人がいたんだよね、あの頃は。
H
俺、ホントに思うのは、受け取る側も考えてくれよってことなんだよ。こっちがアプローチしても、受け取る側が考えてくれないと……でも、たぶん考えてはいるんだろうけど、昔と違ってチョイスができないのかな。
S
そうかもね。
H
今回、マリファナ映画に俺が金出すって言った理由には、こういう冒険を続けていかないとだめだと思ったからも、ある。このおばさん、金出さないとまたメキシコ行って日本企業の通訳やるって言うし……。
S
言ってないよ! そっちのほうが儲かるとは言ったけど(笑)。
H
「じゃあ俺、その会社の隣で定食屋やろうかな」って言ったんだよね。フフフ。
S
そうそう。私ね、昔からずっとメキシコでたこ焼き屋は当たるなと思ってて。だって、どこでもあるもん。タコと粉。
——
ピンチョス的な。
S
そう。やれるかもなとは思ったんだけど、でもたこ焼き屋をタコヤキ・レストランにするまでの頑張りが自分の中にあるか? って思ったら、ぜんぜんない。要するに、嫌なんだよ毎日毎日たこ焼き焼くのは!(笑) メキシコ人に教えればいいじゃんって言われてもさぁ、難しいからね。丸く焼くの。
H
ハハハハ! でもさぁ、最高だよね。素晴らしい映画をこの国に伝えようとして、伝わんないかもしれないけど伝えることを続けてきて、やめるやめるって言ってたおばさんが、今、こんなに活き活きしてるって。金儲けしようとも思ってないのに。
S
金儲け? するよ、私!
H
儲けるためならマリファナ映画なんかやらねえだろ(笑)。でも、あわよくば……。
S
この難しいところでどうやるか、ってことじゃん。あと、好奇心ね。これを忘れないこと。お互いの好奇心が掛け合わされれば、絶対にいいものができる。これからはAIだ何だって言われてるけど、だからこそ、人間が、自分自身から何を作り出せるかっていうのが、絶対、勝負になってくる。
H
結局、作り手なんだよね。比嘉さんは。
S
作りたいっていうか、もう作る方に回んないとだめだ! とは思ってるよ。
H
本当に、60も過ぎてんのにさ……。
S
過ぎてねえよ、バカヤロー!(笑) 59だよ! なったばっかり!
——
おめでとうございます(笑)。
H
じゃあ、来年はちゃんちゃんこだ。
S
ちゃんちゃんこっていうか、真っ赤な感じね。だって、もういいんでしょ? 子どもに戻って。まあ、今でも子どもだって言われてるけどね。フフフ。

(対談はこちらでおしまいです。ご愛読、ありがとうございました)

比嘉世津子 SETSUKO Higa

関西外国語大学外国語学部スペイン語学科卒業。株式会社神戸製鋼所、メキシコ日産自動車会社通訳、JICAコーディネーターなどを経て、99年に「Action Inc.」を設立。英語、スペイン語の通訳、翻訳業務のほか、ラテンアメリカ諸国の独立系映画の買付と国内配給、日本との合作映画の企画などを行う。おもな配給作に『永遠のハバナ』(05年日本公開)、『スリーピング・ボイス〜沈黙の叫び〜』(15年日本公開)、『映画よ、さようなら』(17年日本公開)など。01年の三池崇史監督作『天国から来た男たち』では通訳兼アソシエイト・プロデューサー、16年の『エルネスト もうひとりのゲバラ』では、キューバロケにおいて阪本順治監督の通訳、台本翻訳を担った。

原田満生 MITSUO Harada

1965年生まれ。映画美術監督。『顔』(00年/阪本順治監督)、『ざわざわ下北沢』(00年/市川準監督)で第55回毎日映画コンクール美術賞、第20回藤本賞特別賞を受賞。05年『亡国のイージス』(阪本順治監督)で第29回日本アカデミー賞優秀美術賞、07年『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(松岡錠司監督)で第31回日本アカデミー賞優秀美術賞を受賞。『テルマエ・ロマエ』(12年/武内英樹監督)、『北のカナリアたち』(12年/阪本順治監督)の2作品で第36回日本アカデミー賞優秀美術賞を受賞。『舟を編む』(13年/石井裕也監督)、『許されざる者』(13年/李相日監督)の2作品で第37回日本アカデミー賞優秀美術賞を受賞。同じく『舟を編む』では第68回毎日映画コンクール美術賞を受賞。その他、『深夜食堂』(15年/松岡錠司監督)、『散り椿』(18年/木村大作監督)、『日日是好日』(18年/大森立嗣監督)など。原田満生オフィシャルサイト

Smoke vol.1 創刊号のお知らせ

Smoke vol.1

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池松壮亮(俳優)/比嘉世津子(Action inc.代表)/石井裕也(映画監督)

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