Smoke – 映画系ダイアローグ・マガジン

煙草の煙に目を細めると、照明を浴びたり、隠れたり、表と裏をいったりきたりする魅力的な人たちがいる。映画からそのほかのジャンルまで、愛すべき人たちにクローズアップする、ダイアローグ・マガジン。

【Action Inc.代表 比嘉世津子】「お互いの好奇心を掛け合わせれば」

聞き手:原田満生 写真:Sai 文:大谷道子

INDEX

  1. 世の常識を覆す映画を
  2. 「ラテン系」は明るくない
  3. 貧乏で何が悪いの?
  4. 映画は特別なものになる

S=比嘉世津子 / H=原田満生

貧乏で何が悪いの?

H
で、映画祭っていうマーケットに行くようになって、そこで日本企業の映画の買い方を見るようになって、「バッカヤロー!」って。
S
そうだね。お互いにね(笑)。
H
高い金払って映画買ってくる企業、あるじゃない? 通常の金額じゃないような。その映画が面白かったんなら、もっとちゃんと考えて、愛情を持って交渉して適正な値段で買えばいいのに、たまーに来てバンバン何十本も買ってハイ帰ります、みたいなやり方をするヤツらが……。
S
いるねぇ、どこかに(笑)。私だったら、「この映画なら落としどころはここだよ」っていうのを、ちゃんとコンサルティングするよ。でも、それにはすっごく時間がかかる。
H
適正価格で買うことって、ものすごく重要だと思うんだけど。何だろう、島国だからなのかな……その感覚が向こうと違うっていうか。
S
皆、カンヌとか行くと、舞い上がっちゃうのよ。世界の舞台! みたいな感じで。カンヌなんて、フランスの田舎なのに。
H
ただの観光地だよね。映画祭がなかったら。
S
そう。それをここまで引き上げたのは偉いと思うけど……あと、やっぱり日本人は白人に弱いね。ラテンアメリカとかだとちょっと強気になるけど、それでもアルゼンチンやチリは白人社会だから、ちょっと強く出られるとやり込められちゃう。
H
何で弱いんだろうね。草食だから?
S
ヤツらだって小麦だよ! 悪いけど、小麦と米とじゃ、私は米の勝ちだと思ってる。小麦と違って、水だけで炊けるんだから!
H
面白いねぇ。話がものすごい乱高下してるけど(笑)。
S
まあ私だって、小ちゃい頃にテレビで『奥様は魔女』観て憧れたもんだけど……映画業界、体質が古いじゃない? だから、海外に出たときに変なへりくだりが見えるの、すげぇイヤ。それに日本人って、日本人同士でつるむんだよね。ご飯とかも。何でここまで来て? って思う。せっかく面白いつながりを持てるときなのに、超閉鎖的で。
H
海外生活をしてても、日本人会ってあるよね。俺、シドニーで呼ばれたことある。
S
ケニアにいたとき、日本人会入らないでいたら、超バッシング! だよ。「お前、日本人会入らないでナイロビで暮らせると思ってんのか」とか言われちゃって。だから私、ナイロビの大学院に入って、「私はケニア人と一緒だからほっといてくれ!」って。
H
ハハハ!
S
変わらないんだよねぇ、日本人。だから私は、カンヌもAFM1も自腹で行く。日本人とは誰も連絡取ってない。でもねぇ、どんどん日本は変わってきたような気がしますよ。21世紀に入った頃から。
——
バブリーな頃と比べて?
S
確実に貧乏になってますから。
H
そうだね。
S
でもさ、何でそれが悪いの? って思う。GDPの伸びが悪くて、それがあんたの生活に何か関係あんの? と。ほら、前に『ルイーサ』(10年公開)やったじゃん? アルゼンチン映画。60過ぎた女の人がいて、ある日猫が死んで、おまけにふたつの仕事先でクビになって、銀行口座に20ペソしかないっていうところから始まる……。これ、日本で配給したとき、ワーキングウイメンたちから非常なバッシングを受けたんだよ。
H
何で?
S
「60も過ぎて、自分の口座にいくらお金があるかわかんない人なんているわけがない」って。
——
平和ボケですねぇ。
S
悪いけどこの人、家族を失って死んだように生きてる人だったんだよ? それでも猫と暮らして、毎日同じ時刻に家を出て仕事に行って、ってことで何とか保ってたのに、それが崩れちゃったんだよ? って……私、思ったんだ。こういうところで怒るところに、日本の闇があるなぁと。
H
やっぱり、島国だから? 日本って、ものすごく特殊な国じゃない。島国でこんなに発展したのって、日本とイングランドくらいなんでしょ、歴史的には。
S
でも今、両方とも落ち目だけどね(笑)。皆、すげえ不安なんだよ。日本はやっぱり視点が画一的だから、そうじゃなくてもこうでもいけるって考え方ができないの。だから「人生、そういう見方じゃなくても、こういう見方もあるよ」っていうのを、すごく伝えたかったっていうか……。ラテンアメリカ映画といっても、単にいい映画をっていうだけじゃなくて、日本でやる意味がある映画を買って配給してたつもりなのね。

脚注

  1. ^ American Film Market 毎年秋にカリフォルニア州サンタモニカで開催する映画の見本市。

比嘉世津子 SETSUKO Higa

関西外国語大学外国語学部スペイン語学科卒業。株式会社神戸製鋼所、メキシコ日産自動車会社通訳、JICAコーディネーターなどを経て、99年に「Action Inc.」を設立。英語、スペイン語の通訳、翻訳業務のほか、ラテンアメリカ諸国の独立系映画の買付と国内配給、日本との合作映画の企画などを行う。おもな配給作に『永遠のハバナ』(05年日本公開)、『スリーピング・ボイス〜沈黙の叫び〜』(15年日本公開)、『映画よ、さようなら』(17年日本公開)など。01年の三池崇史監督作『天国から来た男たち』では通訳兼アソシエイト・プロデューサー、16年の『エルネスト もうひとりのゲバラ』では、キューバロケにおいて阪本順治監督の通訳、台本翻訳を担った。

原田満生 MITSUO Harada

1965年生まれ。映画美術監督。『顔』(00年/阪本順治監督)、『ざわざわ下北沢』(00年/市川準監督)で第55回毎日映画コンクール美術賞、第20回藤本賞特別賞を受賞。05年『亡国のイージス』(阪本順治監督)で第29回日本アカデミー賞優秀美術賞、07年『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(松岡錠司監督)で第31回日本アカデミー賞優秀美術賞を受賞。『テルマエ・ロマエ』(12年/武内英樹監督)、『北のカナリアたち』(12年/阪本順治監督)の2作品で第36回日本アカデミー賞優秀美術賞を受賞。『舟を編む』(13年/石井裕也監督)、『許されざる者』(13年/李相日監督)の2作品で第37回日本アカデミー賞優秀美術賞を受賞。同じく『舟を編む』では第68回毎日映画コンクール美術賞を受賞。その他、『深夜食堂』(15年/松岡錠司監督)、『散り椿』(18年/木村大作監督)、『日日是好日』(18年/大森立嗣監督)など。原田満生オフィシャルサイト

Smoke vol.1 創刊号のお知らせ

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池松壮亮(俳優)/比嘉世津子(Action inc.代表)/石井裕也(映画監督)

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