Smoke – 映画系ダイアローグ・マガジン

煙草の煙に目を細めると、照明を浴びたり、隠れたり、表と裏をいったりきたりする魅力的な人たちがいる。映画からそのほかのジャンルまで、愛すべき人たちにクローズアップする、ダイアローグ・マガジン。

【俳優 池松壮亮】「こんなはずじゃなかったことを、ずっと続けている」

聞き手:原田満生 写真:Sai 文:大谷道子

INDEX

  1. 俳優は「つまらない」?
  2. あえて、損をする
  3. 誰と共鳴して生きていくか

I=池松壮亮 / H=原田満生

俳優は「つまらない」?

I
「Smoke」って、いい名前ですね。
H
でしょ?
——
ハーヴェイ・カイテルの出ていた映画1からつけたんですよね。
I
そうなんだ。何でこういうことを始めようと思ったんですか?
H
最初から難しいこと聞くね(笑)。実は考えてないんだ、あんまり。
I
ハハハ! いいんですか、それで。
H
前、壮亮と飲んだとき……えーと、富山のスナックだ。いい店、あったじゃない。
I
ありましたね。すごく古い、おばあちゃんがやってる店。
H
あのとき、すごくいろいろ話したんだけど、壮亮、「原田さん、何でそんなに自由でいられるんですか?」って言ったんだよね。
I
はい。羨ましかったんですよ。久しぶりにちゃんとした大人を見た気がして……。
H
嘘だろ?
I
嘘じゃないですよ。ちゃんとはしてない、んですけどね(笑)。でも、すごくそう思ったので。
H
「好きなこと、もっとやってくださいよ」みたいなことも言ってて……。だから、ってところもあるのかな。ちょっと聞いてみたくなったんだよ。本当の気持ちを。それを、ちょっとほかの人にも聞いてもらえたらなと思っただけなの。
I
うん。今日は話すつもりで来ましたよ。行き過ぎるくらいに。
H
フフフ。壮亮とは、実はそんなに仕事してないんだよね。
I
『バンクーバーの朝日』(14年)と『続・深夜食堂』(16年)、で、『散り椿』(18年)。でも、やってるほうですよ。僕、ちゃんと映画やり始めてそんなに経ってないので。今28ですけど、20歳くらいからなので。
H
あと、CMの現場でも会ったんだよ。覚えてる? まだ学生の頃。
I
覚えてますけど、原田さんとしゃべりましたっけ?
H
しゃべったよ。次の進路をどうするかっていう話。俳優か監督かって。
I
マジですか。そんなことを、よく知らない人と……(笑)。
H
日藝2だったでしょ。
I
はい。映画学科監督コース。じゃあ、卒業制作を撮る前か。うわー。
H
そう。出会ってるんだよ。で、ああ、俳優を選んだんだなって。
I
そう……ですね。でも、俳優ってつまんないなぁと思ってて。
H
何か言いだしたぞ(笑)。
I
ハハハ。そうなんですよ。僕、11歳から始まっちゃったんで。
H
子役からだよね。親の勧め?
I
完全、親でしたね。いろんなことをやってみろっていう親で、で、興味あることだけ続ければいいと。もともと姉貴がそういうことが好きで、地元の、福岡に来る舞台にちょっと子役で出たりとか、そういうことをしてたんですよ。だから、準備は整ってた。
H
へぇ。
I
でも僕、人前に出るのが嫌いで……まあ、今もそうなんですけど、根性試しに行ってこいって言われて。「行ったら野球カード買ってやるから」みたいな、よくある感じ(笑)。それで、劇団四季の『ライオン・キング』のオーディションを受けに行きました。歌と踊りをやんなくちゃいけなくて。
H
歌と踊りって……できねぇだろ?(笑)
I
できないんですよ。だいたい、歌うとか踊るとか女の人がやるもんだと思ってて、親にそう言い返したんですけど、それは違うと。歌っていっても、坂本九さんの『上を向いて歩こう』しか知らなくて、上を向いて歩く歌を下を向いて歌ったら、受かったんです。
H
ハハハハ!
I
そのあと、姉貴の事務所に所属という体になって、1年後に受けたのが『ラストサムライ』(03年)のオーディション。
H
俺、知らなかったんだよ。壮亮が出てるって。「あの子役ですよ」って言われてそうなの? って。つい何カ月か前に知った。
I
あのときは、野球を休んでいやいや東京に行って、知らない外国人たちに「今日は来たくなかった」って言ったら、受かった。
H
すげぇなあ。
I
さすがに『ラストサムライ』に出れば、仕事は来るんです。でも、年1本と決めて、自分でやりたいかどうかを決めたのは10代後半から。大学に入るまで福岡にいたし、当時は、野球がすべてだったので。
H
野球? 普通はサッカーでしょ、あなたの年代なら。
I
モテるのはサッカーでしたね。でも、野球が大好きで。小学校5年間はラグビーもやってます。ポジションは、どっちもセンター。
H
そういえば、『バンクーバー〜』のときも楽しそうにやってたもんな。セカンド。
I
サードです(笑)。楽しかったですね。俳優同士でチームを組むってなかなか難しいんですけど、最終的にはうまくいって、皆で盛り上がった。
H
じゃあ、けっこう体育会系なんだ。
——
どちらかというと、文化系のイメージがありますね。
I
思われがちなんですけど、実はまったくそうじゃないんです。これ、意外とバレてなくて。まあ、体育会押しとかしたくないし。
H
で、大学行って俳優は「つまらない」と。
I
10代から20代前半の頃、「俳優とは」ってことを、けっこう周囲から刷り込まれてたんですよ。「俳優はただの駒であれ」とか、行きすぎちゃいけないラインがあるとか。
H
事務所が言ったの?
I
いや、周りの俳優たちですね。10代の池松は、それにちょっとムカついてたんです。
H
だけど、結果、俳優を選んだ。
I
うーん、何か……片足突っ込んだのに今さら抜くのはダサいかなと。それだけです。本当は、監督をやりたいというより、俳優をやる上で逃げ道をなくすために監督コースに行ったようなものだったし。監督コースに行って俳優としてはダメ、っていうのじゃ、格好悪いでしょう? あくまで今後の覚悟を決めるために、みたいなところはありました。
H
そうなんだ。
I
それにやっぱり、映画の現場って……これ、なかなか伝わらないかもしれないけど、田舎の少年には、もうキラキラしてたんですよ。とくに、最初がハリウッド映画ですから。日本人と外国人が力合わせて頑張ってる、それが原風景にある。俳優はつまんないと思っても、やっぱり現場は楽しいし。
H
そういうヤツらと、毎日何時間も一緒にいるって、すごいことだよな。
I
はい。田舎の学校の教室にいるより、ずっと楽しい。それに、原田さんみたいな変なおじさんがいたり、すっごくダメな人がいたり、いろんな出会いがあって……プラス、別れもあるじゃないですか。
H
うん。泣きたくなるよな。
I
泣きますね。ちっちゃい頃はよく泣いてました。今も、涙は流さないけど心で泣いてるし、寂しくなったりもする。
H
そういうことを子どもの頃に体験したら、忘れられないよね。絶対、影響される。
I
そうですね。そこに執着したわけじゃないんですが……まあ、野球界からドラフトもかかんないんで、これしかないかと(笑)。だから、第2の道です。

脚注

  1. ^ 『スモーク』(原題:Smoke)。ウェイン・ワン監督作。95年公開。
  2. ^ 日本大学藝術学部

池松壮亮 SOSUKE Ikematsu

1990年福岡県生まれ。日本大学藝術学部映画学科監督コース卒業。2003『ラストサムライ』でスクリーンデビュー後、40本を超える映画に出演しつつ、テレビドラマ、舞台、ナレーションなど幅広い作品に参加する。おもな出演作に映画『鉄人28号』『半分の月がのぼる空』『大人ドロップ』『ぼくたちの家族』『海を感じる時』『紙の月』『セトウツミ』『続・深夜食堂』、テレビドラマ『15歳の志願兵』『MOZU』『シリーズ・横溝正史短編集 金田一耕助登場!』『宮本から君へ』など。14年の『愛の渦』ほかで第24回日本映画プロフェッショナル大賞主演男優賞、17年の『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』ほかでTAMA映画祭最優秀男優賞など受賞多数。18年は『万引き家族』『君が君で君だ』『散り椿』『斬、』の4本が公開。19年は『WE ARE LITTLE ZOMBIES』が公開待機中。

原田満生 MITSUO Harada

1965年生まれ。映画美術監督。『顔』(00年/阪本順治監督)、『ざわざわ下北沢』(00年/市川準監督)で第55回毎日映画コンクール美術賞、第20回藤本賞特別賞を受賞。05年『亡国のイージス』(阪本順治監督)で第29回日本アカデミー賞優秀美術賞、07年『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(松岡錠司監督)で第31回日本アカデミー賞優秀美術賞を受賞。『テルマエ・ロマエ』(12年/武内英樹監督)、『北のカナリアたち』(12年/阪本順治監督)の2作品で第36回日本アカデミー賞優秀美術賞を受賞。『舟を編む』(13年/石井裕也監督)、『許されざる者』(13年/李相日監督)の2作品で第37回日本アカデミー賞優秀美術賞を受賞。同じく『舟を編む』では第68回毎日映画コンクール美術賞を受賞。その他、『深夜食堂』(15年/松岡錠司監督)、『散り椿』(18年/木村大作監督)、『日日是好日』(18年/大森立嗣監督)など。原田満生オフィシャルサイト

Smoke vol.1 創刊号のお知らせ

Smoke vol.1

Smoke vol.1 創刊号

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池松壮亮(俳優)/比嘉世津子(Action inc.代表)/石井裕也(映画監督)

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