Smoke – 映画系ダイアローグ・マガジン

煙草の煙に目を細めると、照明を浴びたり、隠れたり、表と裏をいったりきたりする魅力的な人たちがいる。映画からそのほかのジャンルまで、愛すべき人たちにクローズアップする、ダイアローグ・マガジン。

【俳優 池松壮亮】「こんなはずじゃなかったことを、ずっと続けている」

聞き手:原田満生 写真:Sai 文:大谷道子

INDEX

  1. 俳優は「つまらない」?
  2. あえて、損をする
  3. 誰と共鳴して生きていくか

I=池松壮亮 / H=原田満生

誰と共鳴して生きていくか

H
それで、次の『斬、』1は主役。
I
そうですね。塚本(晋也)さんの。日本で唯一、インディペンデントな作家。言っちゃってもいいと思ってるんですけど、今、日本で製作されてる大きな映画で、「これだったら主役をやりたい」と思うのって、年に1本くらいなんですよ。
H
それ、あるだけすごいよ。
I
ハハハ! でも、ギリギリかもしれない。だったら別に大手の作品でなくても……、みたいな気分です。それは、時代が変わったから。たぶん10年前だったら、何が何でもそこに飛び込んでいかなくちゃいけなかったかもしれないんですけど。
H
うん。
I
少なくとも僕は、演じることだけで満足できないし、10人に見せて10人がよかったと言っても満足できないし、もっと言うと、日本で一番をとっても満足できない。大きいところであろうと小さなプロダクションであろうと、映画をやるならこの世界の〝We are the World〟でやろうよ、みたいな思いはあって。
H
そういう思いを持って、何をやるのか……もちろん、何でもいいと思うんだけど。今は俳優やってて、でも、ほかにもいろんなことをやりたくなってるでしょ?
I
そうですね。
H
もうすぐ30か……最高だなぁ。
I
最高、なんですかね。
——
私がこの店を始めたのも、28のときです。今年でちょうど20年。
I
へぇーっ。何かあるのかな、この年代。
H
28から32歳までの間にやったことで、自分の人生でやることが決まるって、俺はよく言ってるんだけどね。結果的に、そこで選んだことを生涯の職業にしたり、生き方の核として選ぶんだよ。もちろん、やりたくないこともやる。で、ネガティブに聞こえるとよくないんだけど、ある意味、諦めもする。もうしょうがない、これをやるしかねぇかなと。
I
そうですよね。20代のうちは、やっぱり夢がありますから。
H
だから、この間にやることに、すごく意味がある。たとえば壮亮が、もしかしたら「もう俳優、やめます」って言うかもしれない……やめないとは思うんだけど。
I
わかんないですね。言うかもしれない。今のところ言わなそうですけど。
H
僕は30ちょっとの頃、下北沢に映画館作ったの。『シネマ下北沢』。
I
市川準さんの『ざわざわ下北沢』(00年)に出てくる?
H
そう。毎日こんなに熱く映画を作ってるのに、配給に持っていって、宣伝されて興行にかかると、映画って変わるじゃない?
I
そうですね。
H
それを一貫してやりたいと思って、そのためには箱を持っていたほうがいいと思ったんだよ。美術でもまだやっと一本立ちしたペーペーだったのに、本当、バカだよね。
I
それで作っちゃうんだから、すごいですね。今の俺が映画館作るようなもんでしょ。
H
周りからも「ふざけんな」ってさんざん言われたけど、そのとき関わってくれたのが、下北沢に住んでた原田芳雄さん。「お前みたいにバカなヤツはいないから、俺、応援するよ」って言ってくれた。昔の映画界って、そういうところだったんだよ。
I
そんな人、今、いないじゃないですか。どこを見回しても。
H
で、最初に聞かれたことに戻るんだけど、今、ちょっとあのときの気持ちを思い出してて……。インタビューにもタブロイドを作るのにも、それなりの労力がかかる。作ったからってお金が入ってくるわけじゃないし。
I
フフフ。
H
でもね、何か……余計なことをやらないとダメなんじゃないか、って気がするんだよ。
——
余計なこと?
H
結局ね、俺が言いたいのは、皆このままでいいのか? ここでいいのか? ってことだけなのよ。さっきの話じゃないけど、新橋のガード下で愚痴言っててもしょうがなくて。何か余計な、でも楽しいことをやるヤツが、iPhoneを作ったりするわけでしょ。
I
この感じがね……僕が言った「何でそんなに自由?」にもつながるんですけど。
H
だったら、余計なことをやったほうがいい。余計なことでも、やっててものすごく面白ければ、自分の中の引出しが増えて、本質的なことがもっとよくなると思うから。「僕は役者で」ってやってても、たぶんダメで。
I
そう思います。僕は映画にも俳優にも興味がなくて、そのうち映画に興味を持って、俳優にはいまだに興味を持ててなくて……っていうところで、それでもわりと踏ん張ってるほうだと思ってて。20代、一応頑張ってきた、そうすると、原田さんみたいな同じ匂いのする人にも出会えたりするし。
H
皆、孤独なんだよ。たぶんね。
I
ですよね。だからこそ、映画をやってる気がする。映画って、人が集まって人生が交差するから。
H
すごく大変だけど、結局、それがいいんだろうな……。その中で、これからの池松壮亮をどうするか? ってことだよね。そういえばここへ来る前、いきなり「俺、映画の買い付けとかやりたいんですよ」って言うから、びっくりした。
I
そう。誰にも言ったことなかったんですけど、実はやってみたいんです。めちゃくちゃ興味があって。俺、けっこういいもの買ってくる自信、あるんですよ。
H
言うねぇ。
I
純粋に映画を観ることが好きだから、感性の部分で選べるんじゃないかと。今の俳優って、ものすごくセンスが必要なんですよ。はみ出そうとしてはみ出してる人がたくさんいて、でもそれがスケベな方に走っていくと、すぐにバレる。原田さんと話してると、やっぱり動機が大事なんだなと思います。それに、一番バッターだったから、選球眼には自信があるし(笑)。
H
いいじゃない。俺もやりたいんだから、一緒に行こうよ。サンダンス2でも、どこでも。ベネツィア出品作で主演やってたヤツがサンダンスで買い付けって、愉快じゃない? 映画を作った相手と直接会って話せるのって、ワクワクするでしょ。「え、お前俳優なの?」とか言われて。そこで出会って得るもの、すごくあると思うんだよね。
I
フフフ。原田さん、新しい場所に引っ越したとき、まず近場でバーを探すって言ってましたよね。そこで人と知り合う、それがすべての始まりで、出会いがあれば人は生きていけるし、それがお金にもなるし……って。
H
覚えてない……そんなこと言ってた?
I
たぶんそれは、人と人が出会ったなら俺たち一緒に生きていこうよってことで、そのためにはお金が発生して、それを稼ぐ必要があるって話で。その発想、この資本主義の成れの果ての平成2年生まれの僕としては、けっこう衝撃だったんですよ。映画祭に行こうっていうのも、たぶんそれと同じで……。
H
だって、楽しくない? たぶん、出発する空港の時点でもうすでに楽しいよね。
I
世界が広すぎませんか? 普通、皆、新橋でワクワクしてるんですよ(笑)。
H
俺たちの仕事っていうのは、いろんな人に共感されるのが絶対的根源。そうだよね? 興行っていうと、即お金になるけど、実は何人に観てもらえるかってことだからね。
I
それ、とんでもないこと言ってますよ。生き物は孤独が根源でしょ? で、人間の根源は孤独をどう癒すかでしょ。誰と共生して、誰と共鳴して生きていくか……でも、そうですよね。僕は映画の入り口がハリウッドだった。世界の人が手をつないで、いろんな人種の人たちが交差する場所だったから。
H
九州の田舎の子だったのにね。
I
そう。こんなはずじゃなかったってことを、ずっと続けてきた。だから、新橋のおじさんよりは映画を選べるはずです(笑)。
——
いい映画、買ってきてください。
I
はい。いい映画って人の足並みを変えるんですよね。とくに今、皆が下向いて歩いてる世の中で、足並みを変えることはやっぱりとんでもないことで。映画は、それが2時間でできる。観て、ちょっとでも明日が豊かになるかもしれないことを提供するのが仕事だと思うと、いいですよね。だからまだ映画をやれているんだと思います。
H
こういうことを、28歳で言うんだからね。
I
いやいや、まだまだへなちょこです。
H
でも、俳優をやるっていうのは、あったほうがいいよ。絶対、そこに戻れるから。
I
はい。今、一周した気はしてても、もうちょい戦えるんじゃないか? とは勝手に思ってるんですけど。その積み重ねが、池松壮亮を作るんですよね、きっと。

脚注

  1. ^ 11月24日公開。2018年ベネツィア国際映画祭コンペティション部門出品作。
  2. ^ サンダンス映画祭。毎年1月、米・ユタ州で開催される、インディペンデント映画専門の見本市。

(対談はこちらでおしまいです。ご愛読、ありがとうございました)

池松壮亮 SOSUKE Ikematsu

1990年福岡県生まれ。日本大学藝術学部映画学科監督コース卒業。2003『ラストサムライ』でスクリーンデビュー後、40本を超える映画に出演しつつ、テレビドラマ、舞台、ナレーションなど幅広い作品に参加する。おもな出演作に映画『鉄人28号』『半分の月がのぼる空』『大人ドロップ』『ぼくたちの家族』『海を感じる時』『紙の月』『セトウツミ』『続・深夜食堂』、テレビドラマ『15歳の志願兵』『MOZU』『シリーズ・横溝正史短編集 金田一耕助登場!』『宮本から君へ』など。14年の『愛の渦』ほかで第24回日本映画プロフェッショナル大賞主演男優賞、17年の『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』ほかでTAMA映画祭最優秀男優賞など受賞多数。18年は『万引き家族』『君が君で君だ』『散り椿』『斬、』の4本が公開。19年は『WE ARE LITTLE ZOMBIES』が公開待機中。

原田満生 MITSUO Harada

1965年生まれ。映画美術監督。『顔』(00年/阪本順治監督)、『ざわざわ下北沢』(00年/市川準監督)で第55回毎日映画コンクール美術賞、第20回藤本賞特別賞を受賞。05年『亡国のイージス』(阪本順治監督)で第29回日本アカデミー賞優秀美術賞、07年『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(松岡錠司監督)で第31回日本アカデミー賞優秀美術賞を受賞。『テルマエ・ロマエ』(12年/武内英樹監督)、『北のカナリアたち』(12年/阪本順治監督)の2作品で第36回日本アカデミー賞優秀美術賞を受賞。『舟を編む』(13年/石井裕也監督)、『許されざる者』(13年/李相日監督)の2作品で第37回日本アカデミー賞優秀美術賞を受賞。同じく『舟を編む』では第68回毎日映画コンクール美術賞を受賞。その他、『深夜食堂』(15年/松岡錠司監督)、『散り椿』(18年/木村大作監督)、『日日是好日』(18年/大森立嗣監督)など。原田満生オフィシャルサイト

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池松壮亮(俳優)/比嘉世津子(Action inc.代表)/石井裕也(映画監督)

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