Smoke – 映画系ダイアローグ・マガジン

煙草の煙に目を細めると、照明を浴びたり、隠れたり、表と裏をいったりきたりする魅力的な人たちがいる。映画からそのほかのジャンルまで、愛すべき人たちにクローズアップする、ダイアローグ・マガジン。

【俳優 池松壮亮】「こんなはずじゃなかったことを、ずっと続けている」

聞き手:原田満生 写真:Sai 文:大谷道子

INDEX

  1. 俳優は「つまらない」?
  2. あえて、損をする
  3. 誰と共鳴して生きていくか

I=池松壮亮 / H=原田満生

あえて、損をする

H
この間の『散り椿』の初日、普段は見に行かない舞台挨拶を見に行ったんだよ。
I
いましたよねぇ。すぐにわかった。正面のど真ん中に真っ黒に灼けた原田さんがニヤニヤしながら座ってて。何だよしゃべりにくいなぁって(笑)。
H
美術部としては、俳優部の池松が何を言うんだろうなと思って……。壮亮って、ある意味、本当に反発する男だよね。合わせるべきところは合わせるけど、そこでボケたりとか、そっぽ向いたりとか、そういうことを上手に入れていくわけ。
I
そんなの、誰にもバレてないですよ。原田さんくらいしかわかってない。
H
芝居でも、ものすごく細かい芝居をしたりするじゃない。そんなの伝わんねぇよっていうような(笑)。何よりすごいのは、自分が損するような芝居をすること。
I
とくに、あのときはそうでしたね。富山で撮ってた作品。
H
普通、やらないんですよ。俳優がまず役をもらうと、自分はこういう芝居をすればいいんだなというのが、主役だと明確なんだけど、脇の人はすごく微妙だったりする。観る人にもなかなか伝わらないから、だったら役のことも考えながら、役者としての自分を表現するほうが得なんです。でも、壮亮はそこで、あえて下手くそな芝居もやったりする。
I
フフフ。
H
その作品でやっていたのは、人としてまだ未熟な男がある程度何かを見つけるまでの話なんだけど、あるとき、撮影中に観た壮亮がすごく下手なことやってて、「あれ? 池松ってこんなに下手だったっけ?」と思ったんだけど、撮影順ってグチャグチャだからね。次に見たときにはよかったんで、今日はすごくフィットしてたって伝えたら、「だって原田さん、あの日の後ですから」って。役として成長する、そんなことまで考えてやってんのか! って思ったんだよ。この28歳が。
I
僕、わりとずるいので、違うところでは平気で勝ちに行ったりするんですよ。「ここはひとり勝ちしよう」って。でも、そういうところに気づく人はあんまりいない。
——
ちょっと楽しんでもいるんですか?
I
いや、そんなつもりはないです。
H
ものすごく器用なんだよ。でも、自分はこうしたい、こんなふうに見せたいって思うのが普通でしょ。
I
まあ、俳優はとくにそうですね。映画って、シーンやカットがあって、あるべき主役はそのときどきによって違うんです。俳優である場合もあるし、俳優でない場合もある。そのへんを、俳優はけっこう間違えがちなんです。なぜなら、やっぱり表に立ちたい人が俳優になるから……。でもその後、原田さんには怒られましたけどね。
H
怒ってないよ。でも、溜まってたよね。
I
溜まってましたねぇ。
H
でも、あとでちゃんと吐き出した。
I
ある日、「飲みに行くか?」って声かけられて、ああ、GOが出たなと思って。原田さん、「あえて下手な芝居をしていることもわかるけど、損するだけじゃなくて、もう一方も見ろ」と。でも俺がそれをやらないと……みたいなことを、愚痴ってしまったんですよね。ドバーッと。ずーっと話、聞いてもらいました。で、怒られた。
H
怒ってないよ。
I
怒られましたよ。「わかってるんですけどー」とか言いながらね(笑)。いや、救ってもらった気がしてるんです。僕は職人タイプの仕事人が好きで、自分でもわりとそっち方面に走りがちなんですけど、今の時代、職人って必要とされてないじゃないですか。それどころか毛嫌いされることだってある。やっぱり皆、時間とお金がない中でものを作らないといけないので。でも……。
——
あえて損をする。それは何のため?
I
映画のため、ですね。作品のため。
H
芝居をするってことは、イコール自分になっちゃうからね。でも壮亮は、映画における自分と俳優としての自分とをすごく考えて、あえてやっている。普通、適当にやりますよ。
I
でも、俳優部も美術部も、ある意味、職人じゃないですか。
H
そうだね。
I
技術者でしょ。その中で、それ以上の想像力を持って仕事に向かうって、けっこう難しいことなんだと思うんですよ。でも、原田さんは誰よりも映画のことを考えているし、もっと言うと未来のこと、人類のことまで考えていて……そういうところが見えてしまったのと、勝手に愛情を感じて、あのときキツかった僕は、つい吐き出してしまったんです。
——
やっちゃいましたか。
I
はい。若気の至りとか、嫌いなんですけど、若さを武器に行っちゃえ! って。信じてもらえないかもしれないですけど、僕、人に頼れないんですよ。
H
そういうタイプだよね。
I
人のことを信じてなくて大人も信じてなくて、そのまま自分も大人になった。でも、原田さんが激励してくれるなら、とことん損をするしかないだろうと……やったらやったで、「やりすぎだ」ってまた怒られる(笑)。
H
だから、怒ってないって。
I
でも、それでわかったんです。だいたい、あのときの僕の役は損をするのが当たり前のポジションで、それは撮影が始まる前からわかってたことですから。答えは出てるのに、付き合ってもらったって感じでしたね。
H
まあね。ほとんど親と子の年齢だからね。俳優だから、俺だって一応気は遣うんだよ? でも、部署のひとつだからね。同じ立場でものを作ってるんだから、仲がいいとかどうとかじゃなく、立場も関係なく、本当はそこまで入っていったほうがいいと思うわけ。
I
俳優同士で誰とご飯食べて……っていうのも、結局は、同じ部署での話ですからね。
H
ある意味、サラリーマンが仕事終わりに同僚と新橋のガード下に行くのと一緒。
I
そうです。もっと言うと、傷の舐め合い。
H
もちろん、舐め合って救われる部分もあるかもしれないけど、先に進まないんだよ。でも、壮亮は本音を出した。基本、俳優の仕事って、自分と違うものを演じながら「本音ですよ」っていうのを見せる仕事だもんね。
I
いろんなタイプがいるんですけどね。本音を持ってて本音じゃないことをやるとか、本音がないのに全部本音みたいに見せるとか。でも僕は、やっぱり本音を手放せない。
H
うん。
I
どれだけのクオリティーで本音を出すか、っていう。それには、どれだけ相手を信頼できるか、みたいなところにかかっている気はしますよね。あのときは、原田さんが垣根を越えてくれたので……。
H
あんまりいないんだよ、越えるヤツ。
I
そうですね。だから、いろいろあるけど明日も頑張りますって眠って、何とか這い上がれた。それでも愚痴ってると「わかった、カラオケ行くぞ!」って。富山と原田さんは、本当、俺に優しかったですね。あのスナックと、シダックス(笑)。
H
俺、富山カラオケクラブ会長だったから。もちろん飲みながらだけど、歌って、声出すでしょ? 腹の底から。あれって、すごくいいことなんだよ。
I
そう思います。人間の根源に、歌うとか踊るとかってこと、やっぱりあるんですよね。
H
泣くとか、笑うとか。
I
そう、表現が。

池松壮亮 SOSUKE Ikematsu

1990年福岡県生まれ。日本大学藝術学部映画学科監督コース卒業。2003『ラストサムライ』でスクリーンデビュー後、40本を超える映画に出演しつつ、テレビドラマ、舞台、ナレーションなど幅広い作品に参加する。おもな出演作に映画『鉄人28号』『半分の月がのぼる空』『大人ドロップ』『ぼくたちの家族』『海を感じる時』『紙の月』『セトウツミ』『続・深夜食堂』、テレビドラマ『15歳の志願兵』『MOZU』『シリーズ・横溝正史短編集 金田一耕助登場!』『宮本から君へ』など。14年の『愛の渦』ほかで第24回日本映画プロフェッショナル大賞主演男優賞、17年の『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』ほかでTAMA映画祭最優秀男優賞など受賞多数。18年は『万引き家族』『君が君で君だ』『散り椿』『斬、』の4本が公開。19年は『WE ARE LITTLE ZOMBIES』が公開待機中。

原田満生 MITSUO Harada

1965年生まれ。映画美術監督。『顔』(00年/阪本順治監督)、『ざわざわ下北沢』(00年/市川準監督)で第55回毎日映画コンクール美術賞、第20回藤本賞特別賞を受賞。05年『亡国のイージス』(阪本順治監督)で第29回日本アカデミー賞優秀美術賞、07年『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(松岡錠司監督)で第31回日本アカデミー賞優秀美術賞を受賞。『テルマエ・ロマエ』(12年/武内英樹監督)、『北のカナリアたち』(12年/阪本順治監督)の2作品で第36回日本アカデミー賞優秀美術賞を受賞。『舟を編む』(13年/石井裕也監督)、『許されざる者』(13年/李相日監督)の2作品で第37回日本アカデミー賞優秀美術賞を受賞。同じく『舟を編む』では第68回毎日映画コンクール美術賞を受賞。その他、『深夜食堂』(15年/松岡錠司監督)、『散り椿』(18年/木村大作監督)、『日日是好日』(18年/大森立嗣監督)など。原田満生オフィシャルサイト

Smoke vol.1 創刊号のお知らせ

Smoke vol.1

Smoke vol.1 創刊号

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池松壮亮(俳優)/比嘉世津子(Action inc.代表)/石井裕也(映画監督)

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